コント:落語刑事

槍沢舞台センターに板付き。パーティ会場。小学校の同窓会が行われている。
 
槍沢:(グラスの飲み物を飲むマイム)はあ、懐かしいなあ……。

栃城:(舞台下手から登場)おお、槍沢!

槍沢:栃城! 久しぶりだな!
栃城:卒業以来だからもう三十年か!? お前、今、なにやってるんだよ!?
槍沢:実はな。俺、刑事やってるんだよ。
栃城:刑事! すごいな!
槍沢:いや、そうでもないよ……。
栃城:すごくないわけないだろ! 刑事だろ刑事!
   まあ、でも刑事なんて刑事ドラマでしか知らないからどんなことしてるのか想像もつかないな。
   やっぱり本当はドラマとは全然違うんだろ?
槍沢:まあな。ああいうのはあくまでもドラマだからな。
栃城:へえ……。じゃあ、実際のところは質問させてもらっていい?
槍沢:ああ。答えられる範囲になるけれどな。なんでも訊いてよ。
栃城:じゃあ、落語家は「お後がよろしいようで」ってあんまり言わないって本当?
槍沢:はあ?
栃城:だから落語家って「お後がよろしいようで」って言って終わらせるイメージがあるじゃん。
   でも、実際の寄席では言う人あんまりいないって噂に聞いてさ、実際はどうなのかなって気になってさ。
槍沢:え? ごめんごめん。俺、刑事ドラマで観たことは実際どうなのかって質問されると思ったんだけれど。
栃城:だから刑事ドラマで観たんだよ「落語刑事(らくごデカ)」
槍沢:「落語刑事」?
栃城:ああ。落語が好きな刑事が落語やりながら事件解決するドラマ。
   主人公の刑事が落語の最後に「お後がよろしいようで」って必ず言うんだよ。
   だからそういうもんだと思ってたんだけれど、実際はどうなの?
槍沢:わかるかよ! なんだその色物ドラマ!
栃城:いやいや、漫才じゃなくて落語だって。
槍沢:は?
栃城:色物って言葉は寄席で漫才とかの落語以外の演目を色つきの字で書いていたことが由来だからな。
   落語の話をしていたのに急に漫才の話をしだすから何事かと思って
槍沢:演芸の話はしてねえよ! ていうか、そんなに寄席に詳しいんだったら俺に訊かなくてもわかるんじゃねえのかよ!
栃城:いやいや、別に詳しくないよ。さっき聞いただけだから。武田って覚えてる?
槍沢:ああ、いつもふざけていてクラスの人気者だった。
栃城:さっき会ったら、あいつ落語家になっててさ。それで話しているうちに教えてもらったんだよ。
槍沢:ちょっと待てちょっと待て! 落語家なら武田に訊いたらそれで終わりだろ!
栃城:訊いたよ。「お後がよろしいようで」って言う人はあんまりいないんだってさ。
   でも、それは落語側の意見であって刑事側の聴かないといけないだろ。
槍沢:ねえんだよ、刑事側の意見は! 落語家がそう言うんならきっとそうなんだろうとしか言えねえよ!
栃城:ああ、そうなんだな!
   で、他にも質問があるんだけれど、「パティシエ刑事(デカ)」ってドラマがあってさ。
槍沢:また色物っぽいタイトルだな。
栃城:洋菓子が好きな刑事がお菓子を作りながら事件を解決するドラマだよ。
槍沢:恐らくだけれど「落語刑事」の兄弟番組だろ。構造が全く一緒なんだよ。
栃城:ドラマで描かれるパティシエの仕事について質問したいんだけれど
槍沢:だから答えようがねえって!
栃城:パティシエって作業の前に三十分絶叫し続けるって本当?
槍沢:はあ?
栃城:主人公がお菓子作るときに「パティシエはみんなする作業だ」って言って三十分間叫び続けるんだけれど、本当かなと思って。
槍沢:本当なわけないだろ! パティシエなんだと思ってるんだよ!
栃城:あ、やらないんだ。
   いや、俺も嘘だろと思ったんだけれど、三十分ずっと叫んでるシーンが流れているからこれだけしつこく流すってことは、
   徹底的にリアリティにこだわってるのかな? って思ってさ。
槍沢:三十分流れ続けたの!? ただ叫んでいるだけのシーンが! どんなドラマだよ!
栃城:初回、九十分スペシャルで三十分間叫んでるから何事かと思ったよ。
槍沢:それ、たぶん脚本間に合わなかったんだよ。
   見切り発車で九十分とっちゃって三十分書けなかったから恐ろしく下手な水増ししたんだよ。
栃城:なるほどな。とにかく、実際にはやらないんだな。
   こういうのって、関わってる人の意見を聴かないとわからないからな。参考になったよ。
槍沢:関わっちゃいないけれど、それが嘘だってことぐらい分かるよ。
栃城:俺もパティシエだけれどやったことないからおかしいなって思ったんだよ。
槍沢:お前パティシエなのかよ! じゃあ訊くまでもなくわかるだろ!
栃城:いや、俺はあくまでもパティシエ側の人間だからさ。そこは刑事側の意見も訊きたいじゃん。
槍沢:だから刑事側の意見はないんだよ! 分かれよ! 色物の付加価値に関しちゃ素人なんだよ! 質問するなよ!
栃城:素人だからって質問しちゃいけないこともないだろ。
   ほら、刑事ドラマでもよく見るじゃん。一般人に捜査のアドバイス求めるの。ああいうのって実際にあるんだろ?
槍沢:あるわけねえだろ。守秘義務なんだと思ってるんだよ。……こういうの!
   こういう刑事ドラマでありがちなシーンは実際どうなのかってことを質問してくれよ!
栃城:え、じゃあ刑事って、一般市民に「拳銃触らせてあげるからハンバーガーおごって」ってよく頼むんだよな!
槍沢:は?
栃城:それから「警察手帳と交換で新品のゲーム機ちょうだい」とか頼むんだよな!
槍沢:お前、今度はどんなドラマ見てるんだよ! 色物の匂いがプンプンするぞ!
栃城:間抜けで失敗ばかりする刑事が主人公の「与太郎刑事(デカ)」ってドラマ。
槍沢:「落語刑事」スピンオフあんのかよ!