漫才:毒味

武田:どうも、よろしくお願いします。
   まず最初に自己紹介しますと僕が武田完で隣にいるのが三浦碧。
   二人合わせてENDGREENです。よろしくお願いします。
三浦:ねえ、ねえ完君、完君。話があるんだけどさ! 私やりたい仕事があるんだ! それで、完君に紹介してもらえないかな!
武田:僕に紹介できるかな? どんな仕事をやりたいんだい?
三浦:毒味!
武田:ちょっと待とうか碧ちゃん。毒味? 毒味って料理に毒が入っていないかどうか食べて調べる毒味?
三浦:うん! 紹介してほしいんだ! だって完君なんでも知ってるもんね!
武田:過大評価が過ぎるよ。なんで毒味をやりたいと思ったんだい?
三浦:だってタダでご飯が食べられるんだよ! しかもグルメロケのレポーターさんと違ってコメント考えなくていいから楽だし!
武田:命を差し出したがゆえの見返りだけれどね。
三浦:それはしょうがないよ。レストランや居酒屋さんだって仕事をした見返りで賄いを食べられるんだし。
武田:命を睹すことをしょうがないで済ませないでね。賄いと同列に扱うものじゃないし。
   確認しておくけれどね碧ちゃん。毒味という職業があるとして雇い主は誰になると思う?
三浦:殿様!
武田:殿様業が存在しないのになぜその下請け業者になれると思ったんだい。
三浦:でも、今でも国家元首とかいるでしょ。そういう人で毒味を探してる人に知らない? 完君顔広いでしょ?
武田:国家元首相手のコネクションを期待されたら過大評価じゃなくて誇大妄想だよ。
   そもそも、芸人のコネで採用させる国家元首信用ならないでしょ。
   ご飯を食べる仕事がしたいなら素直にレポーターさんを目指したらいいんじゃないかな。
三浦:でも、上手にできるか不安なんだよね。
武田:じゃあここで練習してみたらどうかな。僕が教えてあげるから。
三浦:いいの!? ありがとう!
武田:じゃあ、碧ちゃん。まずどれくらい出来るのか見たいからレポーターさんになったつもりで演技してくれないかな。
三浦:いいよ!
   「さあ、お店自慢のハンバーグをいただきます! モグモグ……。この料理、毒は入っていません!」
武田:碧ちゃん、既知の情報だよ。毒味気分が抜けていないね。
三浦:でも、一番重要な情報でしょ!
武田:日本の治安がひっくり返らない限り不要だよ。料理の情報を伝えてよ。
三浦:「このハンバーグ毒が入っているとは思えない見た目をしています!」
武田:既知の情報が続いているよ。全ての料理がそうだし、そもそも見た目だけじゃ毒が入っているかどうか伝わらないよ。
三浦:見た目だけじゃ伝わらない……。そっか! テレビの向こうの人には匂いもお伝えしないと!
武田:きっかけが不穏だけれどレポーターとして開眼したのはよかったね。
三浦:「こちらのハンバーグ、アーモンド臭がしないから毒物は入っていません!」
武田:毒物って青酸カリだけじゃないからね碧ちゃん。
   そして毒の情報をお伝えするための使命感だったのかい。毒味気分を抜こうね。
三浦:「とっても美味しいハンバーグでした。では、評価です! 2.8トリキーネ!」
武田:もはや毒味気分なのかすらわからないよ碧ちゃん。なんだいその不穏な数値は。
三浦:食べたあとに五点満点で評価する番組とかあるでしょ? 私もやってみようかなって思ってさ。
武田:じゃあ、星を用いようよ。毒物に類した名称にしなくていいじゃないか。
   それから、レポートなんだよね。寸評なしの2.8ってまあまあの辛さだからね。
三浦:それはしょうがないよ。私の採点は味じゃなくて毒かどうかが基準だから。
武田:なら0じゃないと困るよ。2.8 ってまあまあの毒じゃないか。
三浦:美味しいから毎日通って食べ過ぎて体に毒になっちゃうってことだよ。
武田:核の部分は誉めだけれど、それ以外全て誹謗中傷で塗り固められているよ。
三浦:毒が入っていたのは料理じゃなくて私のレポートだった……?
武田:皮肉なものだね。まずレポーターさんになりたいなら毒味気分を抜こうね。
三浦:わかった。
武田:じゃあ、技術指導に入るけれど、
   いきなりハンバーグと邂逅していたけれど、他にも仕事はあるからね。
   お店に入る前に「隠れ家的で落ち着いていたお店です」みたいにお店の雰囲気を伝えたりね。
三浦:雰囲気ね。
武田:そう。「見た感じ、レストランが営業しているようには見えない隠れた名店です」とかね。
   外観だけじゃなく中に入ったら「常連さんが多くてアットホームな感じですね」とか店内の雰囲気もちゃんと伝えてね。
   それからご主人にインタビューして「ご主人の人柄が人気の秘訣なんでしょうね」ってお話ししたり、
   内装や食器にこだわっている場合はそこを誉めたりもするし、
   それで、ご飯食べて感想を言って、最後に「星五つです」って評価するんだよ。
三浦:え、えーと……?
武田:ああ、ごめん一度に要求出しすぎちゃったね。
三浦:大丈夫、ちゃんとわかったから!
   ご飯を食べて、「ご主人の人柄が人気の秘訣なんですね」って言えばいいんでしょ!
武田:口に入れた直後の感想ではないよ。これだと味はいまいちなのかな? って邪推されちゃうよ。
三浦:えーと……料理へのこだわりを聴いたあと「内装が人気の秘訣なんでしょうね」っていうんだっけ?
武田:料理を軸にした構成にしようね碧ちゃん。
   人柄も内装も技術に裏打ちされた上で評価されているものだから。
三浦:「ご家庭ではマネ出来ない味ですね。食材にはこだわったんですか?」って質問すればいいの?
武田:考え抜いた末に教えていないフレーズを習得できたね。
三浦:「プロが使う調味料ってすごいんですね!」って言ったり?
武田:それは習得しちゃダメだよ。ご主人の腕より食品会社の企業努力を称えているからね。
三浦:うー……。やっぱり難しいよ……。
武田:あんまり難しく考えないで。とりあえず、毒味から離れてくれればいいから。
三浦:じゃあ、試しにやってみるね!
   「レポーターの三浦です! 本日お邪魔するのはこちらのハンバーグが人気のお店!」
武田:まずお店の雰囲気を伝えてね。
三浦:「アジト的な雰囲気のお店ですね!」
武田:言い回しに気を付けようね。アジトっておかしくないかな?
三浦:「まさかこの場所でこんな活動が行われているとは一般人は知る由もない。って感じです!」
武田:さっきから表現が物騒だよ。視聴者さんに「なにが行われているのかな?」って思われちゃうよ。
三浦:「では、お店の中に入りましょう。うわあ! 人相の悪い人がたくさん! これがファミリーですね!」
武田:あれ? もしかして……。
三浦:「では、ご主人にインタビューを。どうしてお店を開いたんですか?
   ……なるほど。食の世界に革命を起こしたい。
   話している姿からオーラが漂いますね! きっとご主人のカリスマ性に多くの同胞が従い、鉄の掟を産み出したんでしょうね!」
武田:社会に害なす集団を訪れてないかな? マフィアとかテロとかの。
   碧ちゃん、毒味忘れようって言うのは盛られる側から盛る側に接しようってことじゃないから。
三浦:「では、お店自慢のハンバーグをいただきます!」
武田:とりあえず、食事の感想はちゃんとしてね。
三浦:「このハンバーグ、まだ毒は入っていません!」
武田:碧ちゃん、いずれ入れることが確定しているじゃないか。
三浦:「とっても美味しいハンバーグでした。では、評価です! 0トリキーネ!」
武田:単位はトリキーネのままなのかい?
三浦:「食の世界に革命起こしてください!」
武田:ご主人は食だけで留めるつもりなのか気が気じゃないよ。
三浦:どうだった! ちゃんとレポートできてた?
武田:仮にできていたとしても潜入ルポルタージュであってグルメレポートではないよ。
   あと、何度か言ったけれどトリキーネって単位やめようね。
三浦:あ、そうだよね! 響きが鳥貴族に似ているからスポンサーが怒っちゃうもんね!
武田:練習段階で勝手にスポンサーを想定しないでね、碧ちゃん。
   確かにトリキーネでレポートしていたら、スポンサーが鳥貴族でも同業他社でも等しく怒られるだろうけれども。
三浦:うーん……。レポーター難しいよ。よし! やっぱり毒味を目指すね!
武田:碧ちゃん、物騒な原点回帰やめようね。
三浦:これから毒味の練習するから、完君はちゃんと出来ているか確認してね!
武田:ごめん、碧ちゃん。毒味のモデルケースがわからないよ。
   それにうまくできたところで役立てる機会ないでしょ。
   まあ、碧ちゃんがやりたいなら付き合うけれどさ。
三浦:「さあ、本日は毒味にやってきました! レポー……毒味の三浦です!」
武田:碧ちゃん、今度は逆にレポーター気分が抜けていないよ。
三浦:「本日お邪魔するのはこちらのお城!」
武田:お殿様相手を想定しているんだね。
三浦:「隠れ家的雰囲気の天守閣ですね!」
武田:あるのかな? 目立つのが目的で建てられているはずだけれども。
三浦:「ではさっそくお料理を……。うわあ! この器、討ち取った武将のしゃれこうべなんですね!」
武田:なかなかに残虐なタイプの武将なんだね。
三浦:「お客さん……じゃないや家臣が多いのはお殿様の人柄が秘訣なんですね」
武田:悪い意味でしかとらえられないよ碧ちゃん。絶対に恐怖政治で従わせているじゃないか。
三浦:「では、こちらの焼おにぎりからいただきます。……美味しい! さすがお殿様の食事!
    お米とお醤油のシンプルな組み合わせなのに上質な素材を生かした力強くて優しい味がします!」
武田:ちゃんとレポートできているじゃないか碧ちゃん。心配しなくてもレポーター業が務められるよ。
三浦:「表面の焦げたカリカリとした食感と中のお米本来の風味と二つの味わいが楽しめます!
    では、評価! 5トリキニーネです!」
武田:入っていたのかい? だとしたら苦しんでおしまいじゃないか。
三浦:「二つの意味で外はカリカリですね!」
武田:青酸系の毒だったんだね。
三浦:「アーモンド臭がすごかったですからね!」
武田:碧ちゃん、避けられた毒ではないかな?
   お米とお醤油のシンプルな組み合わせでアーモンド臭がするわけないものね。不審に思おうよ。
三浦:「こんなお料理が食べられるのもお殿様の人柄でしょうね」
武田:恐怖政治のツケが回ってきたんだろうね。
三浦:「家庭では出せないお味ですね。やっぱりこの毒って業務用なんですか?
   ……そうですよね。盛られる側だからわからないですよね」
武田:なんなんだいこのやりとり? 家庭用の毒がないから全て業務用だろうし。
三浦:「ああ! そんなことを言っていたら毒が回ってきました! それではこの辺でさような……バタッ!」
武田:そこまで即効性の高くない毒だったんだね。だからレポーターを勤められたんだね。
三浦:どう、完君? ちゃんと毒味出来てた?
武田:知識がなくても断言出来るくらい出来ていなかったよ。
   というか、出来ていたとしても認められないよ。なんで毒が入っている想定で練習するんだい?
三浦:完君。いついかなるときも最悪の事態を想定するのがプロってものだよ!
武田:徒手空拳の段階なのにプロ目線で語らないでね。
   だからといって、なんで死のリハーサルまでやるのさ。なんなんだいこの状況は?
三浦:生前葬
武田:とは呼ばないよ。碧ちゃん、毒味なんて絶対ダメだよ。
   いや、僕が禁止しようがしまいがなれるものじゃないけれど、なれたとしても碧ちゃんの命が危険に晒されるのなんて認めないからね。
三浦:あーあ。ダメか……。せっかくタダでおいしいご飯が食べられると思ったのに……。
武田:今度、ご飯おごるからそれで我慢してよ。いい加減にしようか。
二人:ありがとうございました。