漫才:田舎暮らし

武田:どうも、よろしくお願いします。
   まず最初に自己紹介しますと僕が武田完で隣にいるのが三浦碧。
   二人合わせてENDGREENです。よろしくお願いします。
三浦:ねえ、ねえ完君、完君。話があるんだけどさ! 私、この前、芸能人が田舎を訪ねる番組を見たんだ。
武田:田舎の人と触れ合う旅番組だね。
三浦:それで、こういう番組に出たいなって思ったんだ。
武田:なるほどね。お笑いを頑張っていれば出る機会もあるかもしれないね。
三浦:だから、今度移住するんだ!
武田:住民としてなのかい? 旅番組に出る方法って?
三浦:それで、完君も一緒に田舎に来てほしいんだ!
武田:僕も行くのかい?
三浦:書類は持ってきたからこのあと区役所に行こうね!
武田:行動の早さは評価してあげたいけれどね。まず、どうして僕も行くのか説明してもらえないかな?
三浦:だって、田舎の人ってよそから来た人には冷たいっていうでしょ? だから近くに仲間がいてほしくてね。
武田:まあ、コミュニティのつながりが強い分、外から来た人には厳しいところはあるかもしれないけれども。
三浦:田舎について勉強したんだけれど、恐いんだよ! 命にかかわるんだから!
武田:碧ちゃん、どんな勉強をしたらそんな偏見が生まれるのかな?
三浦:だって、田舎って手鞠歌に見立てられたり、落武者の霊を名乗る人が惨殺していくんでしょ!?
武田:碧ちゃん、参考文献教えてもらえるかな? おそらくだけれど横溝正史の小説を読んでいるよね。
三浦:あー、小説は読んでないかな。市川崑監督の映画はたくさん観たけれど。
武田:碧ちゃんは観てから読むタイプなんだね。碧ちゃんが観たのは全部フィクションだから安心して。
三浦:でも、フィクションを通して現実を描くのが表現者の使命じゃないの?
武田:碧ちゃん。今は芸術論をぶつ場合じゃないよ。
   というかね、そんなに恐がっているなら田舎に移住しない方がよくないかな。
三浦:旅番組に出たいの! そして芸能人をもてなしたいの!
武田:旅番組への憧れが強いんだね。
三浦:事件に巻き込まれなくても、冷たくされたら不安だから
武田:そうだとしたら僕一人が着いていってもしょうがないと思うんだけれど。
三浦:完君だけじゃないよ。三十人ぐらいに声かけているもん。
武田:もはやコミューンじゃないか。三十人だって?
三浦:これだけ集まれば村の人に心を閉ざされても平気だね!
武田:碧ちゃん、正体不明の大所帯が訪れたら。そりゃ村の人も心を閉ざすよ。
三浦:これで旅番組に出られるね!
武田:碧ちゃん、テレビが来るとしても報道だよ。
   謎の集団が占拠してなにをするつもりだって思われるよ。
三浦:別に変なことなんてしないよ。みんなで遊んで田舎を満喫するだけだよ!
武田:遊びってどんな?
三浦:人狼
武田:碧ちゃん、田舎を生かそうよ。別に東京でも楽しめるものじゃないか。
三浦:完君はわかってないなあ。絶対、田舎でやった方が楽しめるよ!
武田:人狼は場所によってクオリティは変わらないよね。
三浦:人狼をやっていると「私は村人です」って宣言するでしょ。
   そのときに「ああ……。名実ともに村人なんだなあ……」ってしみじみ思えるんだ!
武田:他の役職やる人のことも考えようよ碧ちゃん。
   あと、追放されているのにしみじみしないでね。
三浦:他の役職?
武田:あるでしょ、人狼だったら占い師とか番人とか。
三浦:いないよ。
   私がやるのはみんなで輪になって「私は村人です」って言っていく人狼なんだ!
武田:碧ちゃん、人狼じゃないよ。
三浦:そういうローカルルールでやるんだ!
武田:ガラパゴス化が激しすぎるね。確認するけれど、そのゲームに人狼はいるのかな?
三浦:いないよ!
武田:平和な村なんだね。人狼だとしたら、誰かが死なないと始まらないからね。
三浦:……誰かが死なないと? やっぱり田舎は血が流れるの!?
武田:そういうことじゃないから。人狼は手鞠歌に見立てたりしないからね。
   仮にだよ碧ちゃん。旅番組が来たとしてレポーターさんはなんて言うと思うんだい?
三浦:「日本の原風景がありますね」
武田:碧ちゃん、理想論が過ぎるよ。日本のスタートラインはボドゲカフェではないからね。
三浦:テレビもパソコンも使わないでみんなで輪になってわいわい遊ぶ。田舎らしい風景じゃない!
武田:外観はともかく遊びの内容がおかしいんだよ。
三浦:そんなことないよ!
武田:じゃ、碧ちゃんの考える日本の原風景を見せてくれるかな。
三浦:「これから人狼を始めます。私は村人です」
   「私は村人です」
   「私は村人です」
   「私は村人です」
   「私は村人です」
武田:碧ちゃん、やっぱり来るとしても報道だよ。
   申し訳ないけれど怪しげな宗教としか映らないよ。
三浦:「私は村人です」
   「私は村人です」
   「私は村人です」
   「私は村長です」
武田:村長?
三浦:村長さんも一緒に人狼やれたらいいなって。
武田:取り込まれてくれるかな? 行政の長が。
三浦:「私は村人です」
   「私は村人です」
   「私はジョニー・デップです」
武田:レポーターは高田純次さんなのかな?
三浦:こういう風に旅番組に出たいから一緒に田舎に行こう!
武田:ごめん、碧ちゃん。村人と口にし続けるだけのコミューンには加わりたくないし、なにより東京で漫才やりたい。
三浦:……完君の気持ちはわかったよ。田舎には私ひとりで行くね!
   だから完君、いつか旅番組の私の村にレポーターで来て再会しようね!
武田:本当にわかってくれたのかな? ずっと東京で漫才やろうって頼んでいるんだけれど。
三浦:それで一緒に人狼やろう!
   「私は村人です」
   「私は村人です」
   「私は村人です」
   「私は武田完の最高の相方です」
   「私は三浦碧の最高の相方です」って言い合おうね!
武田:厚顔無恥が過ぎるよ碧ちゃん。
   それにそこまで言うなら東京で漫才頑張ろうね。いい加減にしようか。
二人:ありがとうございました。