漫才:心霊スポット

武田:どうも、よろしくお願いします。
   まず最初に自己紹介しますと僕が武田完で隣にいるのが三浦碧。
   二人合わせてENDGREENです。よろしくお願いします。
三浦:ねえ、ねえ完君、完君。話があるんだけどさ! 肝試しってロマンチックだよね!
武田:ごめんね、碧ちゃん。だよねと言われても共感できないよ。肝試しがロマンチックってどういうことだい?
三浦:暗い闇の中を肩を寄せ合い手に手を取って歩いていく……。ロマンチックでしょ!
武田:情景だけ切り取ればそれっぽく見えるけれど、実際はホラーと隣り合わせだからね。
三浦:それに二人で肝試しをすることで距離が縮まったり恋が生まれるって言うじゃない!
武田:吊り橋効果ってことかい?
三浦:そう! ね、ロマンチックなイベントでしょ!
武田:仮にロマンチックの要素があったとしても、副産物じゃないかな。
三浦:それで、私はもっと恋が生まれるような心霊スポットがあればいいと思うんだ。
武田:心霊スポットなのに恋が生まれるのかい?
三浦:うん! 心霊スポットを恋に効くパワースポットとして利用してもらいたいんだ!
武田:心霊現象に縁起のよさ加えようがないと思うんだけれどね。
三浦:もしあったら絶対に人気のスポットになるよね!
武田:碧ちゃん、心霊と恋愛成就は客層被らないと思うよ。
三浦:じゃあ、二倍来てくれるね!
武田:碧ちゃん、なぜ両獲りできると踏めたんだい? 双方が敬遠する未来しか見えないよ。
   そもそもそんな都合のいい心霊スポットないと思うんだけれど。
三浦:だよねー。だから、恋に効く心霊スポットを手作りしようと思うんだ。
武田:作ろうと思って作るものじゃないよ碧ちゃん。というか、え? 手作り?
三浦:そう! 手作りの心霊スポット!
武田:それは犯行予告だよ碧ちゃん。
   幽霊が出るってどういうことかわかっているのかい?
三浦:別に幽霊が出なくても心霊スポットは作れるよ。
   その場所に誰かの強い想いが残ればいいんだから。
武田:残留思念とかそういうことかな?
三浦:そうそう! 心霊スポットでは呪いや怨念が強く残ることで、訪れた人を怖がらせる心霊現象が起きるでしょ。
   それと同じように「恋をさせたい」って強い想いが残ることで訪れた二人を結びつける心霊現象が起こるんだ!
武田:大きく分けて二つのポイントで疑問符があるからひとつずつ訊いていくね。
   どうやって「恋をさせたい」って想いを残させるつもりだい?
三浦:縁結びが趣味の人を心霊スポットの予定地に集めて、「誰でもいいから恋させたい!」って想ってもらうんだ!
武田:それで残留思念が残るかはこの際譲るとして、縁結びが趣味の人なんてどうやって見つけるつもりだい?
三浦:とりあえず、世話焼き好きの親戚のおばさんに声をかけてみるよ。
武田:碧ちゃん、闇雲ではない。
   いくら世話を焼くのが好きでも親戚のおばさんは身の回りの人しかターゲットにしないよ。
三浦:でも、世話好きの親戚のおばさんの世話好きの親戚のおばさんの世話好きの親戚のおばさんの……って広げていけば広がっていくよ!
武田:おせっかいって累乗していくものではないからね。結局、一族の範囲しか広がらないからね。
三浦:じゃあ、婚活パーティに行って探すよ!
武田:世話好きの人をかい?
三浦:うん! だって婚活パーティに行けば、参加者同士を結びつけるために世話好きの人がこっそりさんかしているかもしれないでしょ!
武田:存在するかな? そんな碧ちゃんの都合にいい趣味の人。
   ためらいなく切り捨てていいかもしれなさだと思うんだけれど。
三浦:世話好きの人を集めたら「恋させたい!」、「結びつけたい!」って強く想わせるんだ!
武田:簡単に言うけれど、どうやって残留思念になるほど想いを残させるんだい。
三浦:少女漫画を読んでもらうんだ!
武田:あのね、碧ちゃん……。
三浦:完君の言いたいことはわかってるよ。
   少女漫画を読んで「恋したい」って思うことはあっても「恋させたい」って思うことはあるのかが心配なんだよね?
武田:受動性の問題じゃなくてね。
三浦:でも、奥手で純情な二人が少しずつ近づいていくもどかしくて甘酸っぱいラブストーリーを読んだら
   「恋させたい!」、「結びつけたい」って思うんだからね!
武田:ごめんね、碧ちゃん。今は面白い少女漫画の話をしたいんじゃないんだ。
   あのさ、碧ちゃん。碧ちゃんが作りたいのは心霊スポットなんだよね? 場所はどこを予定しているのかな?
三浦:山奥の廃トンネルだよ!
武田:なるかな? 山奥の廃トンネルに連れてこられて漫画読まされて「恋させたい」って気持ちに。
三浦:すっごくいい漫画なんだよ!
武田:その熱量で語らせる時点でどれだけすぐれた作品なのかは伝わるけれども。
   漫画を楽しむには環境が不穏だからね。このシチュエーションだとポテンシャルを発揮できるか不安だよ。
三浦:とにかく、こうすれば肝キュンな心霊スポットが誕生するの!
武田:胸キュンみたいに言わないでね。
三浦:そして恋と心霊の両方から話題になってにぎわうの!
武田:心霊スポットにおいて「にぎわう」って言葉が似つかわしいかは疑問だけれどね。
三浦:今まで怪談といえば「怖いなー怖いなー」だったのが「恋したいなー恋したいなー」に変わるんだから!
武田:変わるかな? 恋したいが怖いなに取って変わるって相当なジャイアントキリングだよ。
三浦:稲川淳二さんも稲川キュン死に改名するんだから!
武田:碧ちゃん、そこまで行くと稲川さんが血迷うかどうかの問題になってくるよ。
   それで碧ちゃん。さっき棚上げした疑問点に移るけれど、肝試しに来た二人を結びつける心霊現象って。
三浦:肝試しで廃トンネルに入っていくとどこからともなく
   「あ、あの二人すっごくいい雰囲気!」
   「本当、もう付き合っちゃえばいいのにー!」って声が聴こえてくるの。
武田:碧ちゃん、恐怖の判定勝ちだよ。冷やかすだけて恋の要素が薄すぎないかな?
三浦:それから前から血まみれの男の子が走ってきて……
武田:碧ちゃん、恐怖のTKO勝ちだよ。そこからロマンスまで持っていける?
三浦:「あ、あの二人すっごくいい雰囲気! もう付き合っちゃえばいいのにー!って叫んで去っていくの!
武田:碧ちゃん、計量の時点で恐怖の勝ちだよ。恋の要素冷やかししかないのかい?
   ダメだよ碧ちゃん。こんな心霊スポットじゃ誰も結ばれないよ。
三浦:そんな! 普通の心霊スポットとしてしか繁盛しないの?
武田:そっちの願いも望み薄だよ。繁盛という言い方が正しいかわからないけれど。
三浦:あーあ……。この心霊スポットが成功したら立川談志師匠が今後立川キュン死の名で後世に伝わっていくと思ったのに。
武田:碧ちゃん、落語の名跡をなんだと思っているんだい。いい加減にしようか。
二人:ありがとうございました。