漫才:虎退治

武田:どうも、よろしくお願いします。
   まず最初に自己紹介しますと僕が武田完で隣にいるのが三浦碧。
   二人合わせてENDGREENです。よろしくお願いします。
三浦:ねえ、ねえ完君、完君。話があるんだけどさ! 私、虎を退治したいんだ!
武田:ごめんね碧ちゃん。話を始めるには受け入れがたい切り口だよ。虎を退治したい?
三浦:そう! 虎退治! それで、完君にお願いがあるんだけれど、虎を出してほしいんだ!

武田:虎を出す?
三浦:そう! どこかから虎を出して欲しいんだ!
武田:「一休さん」以外でされたことのない問いかけだよ。
三浦:虎を退治するために虎を出そうとしているんだけれど、なかなか上手く行かなくてね。
武田:自問自答の一休さんではあったんだね。
三浦:完君に力を貸してほしいんだ。
武田:すがられたところで無力だよ。
   出発点から整理していきたいんだけれど、なんで虎退治への欲求が生まれたんだい?
三浦:この前、本屋さんでブラブラしていたら児童書のコーナーで「一休さん」を見つけてね。
   そういえば虎退治したことないなって思ったの。
武田:そういえばで導かれる感慨じゃないよ。
三浦:人生で一度くらいは虎退治したいって思うでしょ!
武田:そういう漠然とした憧れはスカイダイビングとかスキューバに抱くものだよ。
   大体、一休さんだって将軍の無理難題に言い返しただけで本当に虎を退治したわけじゃないからね。
三浦:だから虎を退治できたら一休さんを越えることができるの!
武田:碧ちゃん、はじめて見たよ一休さんに対抗心燃やしている人。
三浦:それで虎を退治しようとしたんだけれど、虎が見つからなくて困っててね。
   じゃあ、虎を出せばいいんだ! って気づいたんだ!
武田:導入から理解出来なかったから深く掘り下げなかったけれど、「虎を出す」ってどういうことなんだい?
三浦:虎に限らないけれど、この世のすべてのものは元素でできているわけでしょ?
   じゃあ、元素の組み合わせを変えさえすれば虎じゃないものから虎を産み出せるじゃない!
武田:碧ちゃん、発想が錬金術師と同じじゃないか。
三浦:毎日、家にこもって頑張ってるの!
武田:錬金術師の試行錯誤じゃないか。
三浦:それで、友達に声をかけて一緒に頑張ってるんだ!
武田:錬金術師の切磋琢磨じゃないか。
三浦:猛虎会って名前で活動しているんだ!
武田:名前だけならタイガースファンの集いだね。
   というか、よく一緒に虎退治ないし虎の出現を手伝ってくれる友達が見つかったね。
三浦:お菓子をあげたら一緒にやってくれるって。
武田:碧ちゃん、仲間の作り方が小学生か桃太郎と同じじゃないか。
三浦:それなのにどうすれば虎が出せるかわからなくて困ってるんだ。
   ねえ、完君。虎がなにで出来ているか知らない?
武田:虎は虎で出来ているとしか答えようがないよ碧ちゃん。
   女の子はお砂糖とスパイスと素敵なもので出来ているみたい詩的な話じゃないんだからね。
   仮に、仮にだよ碧ちゃん。虎を出現させられたとしてどうやって退治するつもりだい?
三浦:ぐるぐる回ってバターにするよ!
武田:碧ちゃん、児童書から絵本のコーナーに足を伸ばさなかった?
三浦:だからまずはバターを買ってきて放置してみたんだけれど、バターのままなんだよね。
武田:変化する要因がないからね。
三浦:次にバターに小麦粉、卵、牛乳、お砂糖を加えて作ってみたんだ。
武田:碧ちゃん、クッキーのレシピじゃないか。それじゃ、クッキーしか出来ないじゃないか。
三浦:マドレーヌも出来たよ!
武田:別の調理法方も試してみたんだね。
三浦:次の週はドーナツだって作ったし、その次の週はスポンジケーキだって作ったもん!
武田:一週ごとにがレパートリーが増えていったんだね。
三浦:これだけじゃ材料が足りないのかなと思って、
   チョコレートチップやドライフルーツを入れたんだけれど美味しくしかならなくて……。
武田:いいことじゃないか。
三浦:そんな風にこの半年間、虎じゃなくてお菓子しか作れていないの! どうしたらいいと思う?
武田:虎退治っていう目標を捨てることじゃないかな。お菓子作りの趣味にした方がいいよ。
三浦:この前なんか水羊羹を作っちゃったし!
武田:もうバター関係なくなっちゃったね。
   確認しておくけれど虎退治が目的で集まった他のメンバーはなんて言ってるんだい?
三浦:「なんで猛虎会って名前なんだろうね?」
武田:当初の目的が完全に忘れ去られているじゃないか。
   ……あれ? 一緒にやってる友達ってお菓子を渡して仲間になったんだよね? それってもしかして碧ちゃんが作った。
三浦:うん! 私の失敗作をおすそわけしたんだ。
武田:やっぱりそうなんだね。
三浦:友達は「すごく美味しい」って誉めてくれたんだけれど、
   「全部失敗作で、まだまだ完成にはほど遠いんだよね。完成したらすごいものが出来るんだ!」って言ったら
   「私も一緒にやりたい!」って言ってくれたんだ!
武田:その友達、最初からお菓子作りの集まりとして参加していないかな? 誤解が生じているよね?
三浦:そんな……。一緒に頑張ってきたのに虎退治に興味がなかったなんて……。
   「たまには餡子を使ってみよう」とか、「次は栗に挑戦しよう」って熱心にアドバイスしてくれたのに!
武田:栗羊羮が食べたいんだね。碧ちゃんの友達は。
三浦:もういい! 私、虎退治やめる! それで本当にやりたかったことをやる!
武田:最初からずっと虎退治はやっていなかったけれどね。
   それで、なんなんだい碧ちゃんの本当にやりたいことって?
三浦:お菓子作り!
武田:え? お菓子?
三浦:うん! 元々、お菓子作りに興味があってレシピを買いに行ったんだけれど、
   児童書コーナーで一休さん見ちゃってさ……。
   これからは虎退治に使っていた時間で、初心に帰ってお菓子作りを頑張るね!
武田:碧ちゃん、現状維持で十分じゃないか。いい加減にしようか。
二人:ありがとうございました。

漫才:毒味

武田:どうも、よろしくお願いします。
   まず最初に自己紹介しますと僕が武田完で隣にいるのが三浦碧。
   二人合わせてENDGREENです。よろしくお願いします。
三浦:ねえ、ねえ完君、完君。話があるんだけどさ! 私やりたい仕事があるんだ! それで、完君に紹介してもらえないかな!
武田:僕に紹介できるかな? どんな仕事をやりたいんだい?
三浦:毒味!
武田:ちょっと待とうか碧ちゃん。毒味? 毒味って料理に毒が入っていないかどうか食べて調べる毒味?
三浦:うん! 紹介してほしいんだ! だって完君なんでも知ってるもんね!
武田:過大評価が過ぎるよ。なんで毒味をやりたいと思ったんだい?
三浦:だってタダでご飯が食べられるんだよ! しかもグルメロケのレポーターさんと違ってコメント考えなくていいから楽だし!
武田:命を差し出したがゆえの見返りだけれどね。
三浦:それはしょうがないよ。レストランや居酒屋さんだって仕事をした見返りで賄いを食べられるんだし。
武田:命を睹すことをしょうがないで済ませないでね。賄いと同列に扱うものじゃないし。
   確認しておくけれどね碧ちゃん。毒味という職業があるとして雇い主は誰になると思う?
三浦:殿様!
武田:殿様業が存在しないのになぜその下請け業者になれると思ったんだい。
三浦:でも、今でも国家元首とかいるでしょ。そういう人で毒味を探してる人に知らない? 完君顔広いでしょ?
武田:国家元首相手のコネクションを期待されたら過大評価じゃなくて誇大妄想だよ。
   そもそも、芸人のコネで採用させる国家元首信用ならないでしょ。
   ご飯を食べる仕事がしたいなら素直にレポーターさんを目指したらいいんじゃないかな。
三浦:でも、上手にできるか不安なんだよね。
武田:じゃあここで練習してみたらどうかな。僕が教えてあげるから。
三浦:いいの!? ありがとう!
武田:じゃあ、碧ちゃん。まずどれくらい出来るのか見たいからレポーターさんになったつもりで演技してくれないかな。
三浦:いいよ!
   「さあ、お店自慢のハンバーグをいただきます! モグモグ……。この料理、毒は入っていません!」
武田:碧ちゃん、既知の情報だよ。毒味気分が抜けていないね。
三浦:でも、一番重要な情報でしょ!
武田:日本の治安がひっくり返らない限り不要だよ。料理の情報を伝えてよ。
三浦:「このハンバーグ毒が入っているとは思えない見た目をしています!」
武田:既知の情報が続いているよ。全ての料理がそうだし、そもそも見た目だけじゃ毒が入っているかどうか伝わらないよ。
三浦:見た目だけじゃ伝わらない……。そっか! テレビの向こうの人には匂いもお伝えしないと!
武田:きっかけが不穏だけれどレポーターとして開眼したのはよかったね。
三浦:「こちらのハンバーグ、アーモンド臭がしないから毒物は入っていません!」
武田:毒物って青酸カリだけじゃないからね碧ちゃん。
   そして毒の情報をお伝えするための使命感だったのかい。毒味気分を抜こうね。
三浦:「とっても美味しいハンバーグでした。では、評価です! 2.8トリキーネ!」
武田:もはや毒味気分なのかすらわからないよ碧ちゃん。なんだいその不穏な数値は。
三浦:食べたあとに五点満点で評価する番組とかあるでしょ? 私もやってみようかなって思ってさ。
武田:じゃあ、星を用いようよ。毒物に類した名称にしなくていいじゃないか。
   それから、レポートなんだよね。寸評なしの2.8ってまあまあの辛さだからね。
三浦:それはしょうがないよ。私の採点は味じゃなくて毒かどうかが基準だから。
武田:なら0じゃないと困るよ。2.8 ってまあまあの毒じゃないか。
三浦:美味しいから毎日通って食べ過ぎて体に毒になっちゃうってことだよ。
武田:核の部分は誉めだけれど、それ以外全て誹謗中傷で塗り固められているよ。
三浦:毒が入っていたのは料理じゃなくて私のレポートだった……?
武田:皮肉なものだね。まずレポーターさんになりたいなら毒味気分を抜こうね。
三浦:わかった。
武田:じゃあ、技術指導に入るけれど、
   いきなりハンバーグと邂逅していたけれど、他にも仕事はあるからね。
   お店に入る前に「隠れ家的で落ち着いていたお店です」みたいにお店の雰囲気を伝えたりね。
三浦:雰囲気ね。
武田:そう。「見た感じ、レストランが営業しているようには見えない隠れた名店です」とかね。
   外観だけじゃなく中に入ったら「常連さんが多くてアットホームな感じですね」とか店内の雰囲気もちゃんと伝えてね。
   それからご主人にインタビューして「ご主人の人柄が人気の秘訣なんでしょうね」ってお話ししたり、
   内装や食器にこだわっている場合はそこを誉めたりもするし、
   それで、ご飯食べて感想を言って、最後に「星五つです」って評価するんだよ。
三浦:え、えーと……?
武田:ああ、ごめん一度に要求出しすぎちゃったね。
三浦:大丈夫、ちゃんとわかったから!
   ご飯を食べて、「ご主人の人柄が人気の秘訣なんですね」って言えばいいんでしょ!
武田:口に入れた直後の感想ではないよ。これだと味はいまいちなのかな? って邪推されちゃうよ。
三浦:えーと……料理へのこだわりを聴いたあと「内装が人気の秘訣なんでしょうね」っていうんだっけ?
武田:料理を軸にした構成にしようね碧ちゃん。
   人柄も内装も技術に裏打ちされた上で評価されているものだから。
三浦:「ご家庭ではマネ出来ない味ですね。食材にはこだわったんですか?」って質問すればいいの?
武田:考え抜いた末に教えていないフレーズを習得できたね。
三浦:「プロが使う調味料ってすごいんですね!」って言ったり?
武田:それは習得しちゃダメだよ。ご主人の腕より食品会社の企業努力を称えているからね。
三浦:うー……。やっぱり難しいよ……。
武田:あんまり難しく考えないで。とりあえず、毒味から離れてくれればいいから。
三浦:じゃあ、試しにやってみるね!
   「レポーターの三浦です! 本日お邪魔するのはこちらのハンバーグが人気のお店!」
武田:まずお店の雰囲気を伝えてね。
三浦:「アジト的な雰囲気のお店ですね!」
武田:言い回しに気を付けようね。アジトっておかしくないかな?
三浦:「まさかこの場所でこんな活動が行われているとは一般人は知る由もない。って感じです!」
武田:さっきから表現が物騒だよ。視聴者さんに「なにが行われているのかな?」って思われちゃうよ。
三浦:「では、お店の中に入りましょう。うわあ! 人相の悪い人がたくさん! これがファミリーですね!」
武田:あれ? もしかして……。
三浦:「では、ご主人にインタビューを。どうしてお店を開いたんですか?
   ……なるほど。食の世界に革命を起こしたい。
   話している姿からオーラが漂いますね! きっとご主人のカリスマ性に多くの同胞が従い、鉄の掟を産み出したんでしょうね!」
武田:社会に害なす集団を訪れてないかな? マフィアとかテロとかの。
   碧ちゃん、毒味忘れようって言うのは盛られる側から盛る側に接しようってことじゃないから。
三浦:「では、お店自慢のハンバーグをいただきます!」
武田:とりあえず、食事の感想はちゃんとしてね。
三浦:「このハンバーグ、まだ毒は入っていません!」
武田:碧ちゃん、いずれ入れることが確定しているじゃないか。
三浦:「とっても美味しいハンバーグでした。では、評価です! 0トリキーネ!」
武田:単位はトリキーネのままなのかい?
三浦:「食の世界に革命起こしてください!」
武田:ご主人は食だけで留めるつもりなのか気が気じゃないよ。
三浦:どうだった! ちゃんとレポートできてた?
武田:仮にできていたとしても潜入ルポルタージュであってグルメレポートではないよ。
   あと、何度か言ったけれどトリキーネって単位やめようね。
三浦:あ、そうだよね! 響きが鳥貴族に似ているからスポンサーが怒っちゃうもんね!
武田:練習段階で勝手にスポンサーを想定しないでね、碧ちゃん。
   確かにトリキーネでレポートしていたら、スポンサーが鳥貴族でも同業他社でも等しく怒られるだろうけれども。
三浦:うーん……。レポーター難しいよ。よし! やっぱり毒味を目指すね!
武田:碧ちゃん、物騒な原点回帰やめようね。
三浦:これから毒味の練習するから、完君はちゃんと出来ているか確認してね!
武田:ごめん、碧ちゃん。毒味のモデルケースがわからないよ。
   それにうまくできたところで役立てる機会ないでしょ。
   まあ、碧ちゃんがやりたいなら付き合うけれどさ。
三浦:「さあ、本日は毒味にやってきました! レポー……毒味の三浦です!」
武田:碧ちゃん、今度は逆にレポーター気分が抜けていないよ。
三浦:「本日お邪魔するのはこちらのお城!」
武田:お殿様相手を想定しているんだね。
三浦:「隠れ家的雰囲気の天守閣ですね!」
武田:あるのかな? 目立つのが目的で建てられているはずだけれども。
三浦:「ではさっそくお料理を……。うわあ! この器、討ち取った武将のしゃれこうべなんですね!」
武田:なかなかに残虐なタイプの武将なんだね。
三浦:「お客さん……じゃないや家臣が多いのはお殿様の人柄が秘訣なんですね」
武田:悪い意味でしかとらえられないよ碧ちゃん。絶対に恐怖政治で従わせているじゃないか。
三浦:「では、こちらの焼おにぎりからいただきます。……美味しい! さすがお殿様の食事!
    お米とお醤油のシンプルな組み合わせなのに上質な素材を生かした力強くて優しい味がします!」
武田:ちゃんとレポートできているじゃないか碧ちゃん。心配しなくてもレポーター業が務められるよ。
三浦:「表面の焦げたカリカリとした食感と中のお米本来の風味と二つの味わいが楽しめます!
    では、評価! 5トリキニーネです!」
武田:入っていたのかい? だとしたら苦しんでおしまいじゃないか。
三浦:「二つの意味で外はカリカリですね!」
武田:青酸系の毒だったんだね。
三浦:「アーモンド臭がすごかったですからね!」
武田:碧ちゃん、避けられた毒ではないかな?
   お米とお醤油のシンプルな組み合わせでアーモンド臭がするわけないものね。不審に思おうよ。
三浦:「こんなお料理が食べられるのもお殿様の人柄でしょうね」
武田:恐怖政治のツケが回ってきたんだろうね。
三浦:「家庭では出せないお味ですね。やっぱりこの毒って業務用なんですか?
   ……そうですよね。盛られる側だからわからないですよね」
武田:なんなんだいこのやりとり? 家庭用の毒がないから全て業務用だろうし。
三浦:「ああ! そんなことを言っていたら毒が回ってきました! それではこの辺でさような……バタッ!」
武田:そこまで即効性の高くない毒だったんだね。だからレポーターを勤められたんだね。
三浦:どう、完君? ちゃんと毒味出来てた?
武田:知識がなくても断言出来るくらい出来ていなかったよ。
   というか、出来ていたとしても認められないよ。なんで毒が入っている想定で練習するんだい?
三浦:完君。いついかなるときも最悪の事態を想定するのがプロってものだよ!
武田:徒手空拳の段階なのにプロ目線で語らないでね。
   だからといって、なんで死のリハーサルまでやるのさ。なんなんだいこの状況は?
三浦:生前葬
武田:とは呼ばないよ。碧ちゃん、毒味なんて絶対ダメだよ。
   いや、僕が禁止しようがしまいがなれるものじゃないけれど、なれたとしても碧ちゃんの命が危険に晒されるのなんて認めないからね。
三浦:あーあ。ダメか……。せっかくタダでおいしいご飯が食べられると思ったのに……。
武田:今度、ご飯おごるからそれで我慢してよ。いい加減にしようか。
二人:ありがとうございました。

漫才:医者

槍沢:はいどうもよろしくお願いします。言霊連盟です。
栃城:ちょっと相談がありまして。医者になりたいんですよね。
槍沢:お医者さんに?
栃城:でも、今から医学部を目指して勉強して……っていうのも難しいじゃないですか。
槍沢:まあ、時間はかかるでしょうね。
栃城:だから無免許で医者になろうかなと。
槍沢:どんな解決策だよ!
栃城:タイムマシンがあったらよかったんだけれどね。タイムマシンと無免許だったら絶対タイムマシン選んでるもん!
槍沢:どんな二択だよ!
栃城:タイムマシンなんて現実的じゃないからね。無免許を選んだんだよ。
槍沢:現実ってもっと多彩だからな! いくらでも選べるものあるからな。
栃城:いや、もしタイムマシンがあったとしても無免許を選んでいたな。
槍沢:なんでだよ。無免許
栃城:だって、医者になる人が何歳ぐらいから目指しはじめるのかわからないけれど、子供の頃からずっと勉強漬けでしょ?

   そんな人生を歩んでしまったら。今の俺とかけ離れてしまう。そんな俺はもはや俺じゃない!
槍沢:一から十まで知らねえよこの話!
栃城:俺は今の俺が好きだ!
槍沢:なんだよその情けない自己愛!
栃城:とにかく、無免許でなることにしたんですよ。
槍沢:なったとは言わないからな。
栃城:で、医者で一番大変なのって手術だと思うんですよ。
   相談っていうのは槍沢さんに練習台になってもらえないかってことでして。
槍沢:絶対に嫌だよ! 無免許の手術ってただの猟奇犯罪だからな!
栃城:別にメスとかは使いませんよ。
槍沢:手術なのに?
栃城:俺の言う手術は壷の中に水を入れて飲んでもらうことだから。
槍沢:インチキ療法じゃねえかよ!
栃城:いくら医者とはいえ、メス使って手術したら傷害罪とか下手すりゃ殺人になるわけでしょ。俺、罪犯したくないもん。
槍沢:別の罪犯しているよ! 身分査証とか薬事法とかそういう類いの罪業を!
栃城:いくら医者とはいえね。医者とはいえ。
槍沢:とはいえじゃねえんだよ。さっきから医者ぶるなよ。インチキな民間療法やってるだけだろ。
栃城:これからの時代、民泊もあるし医療も民間に任せるべきでしょ。
槍沢:一緒にするなよ。どうせ、この水を飲めばガンが治るとか言うんだろ?
栃城:いやいやいや……。ガンは治らない!
槍沢:わかってるんだよ!

栃城:水飲むだけでガンが治るわけないでしょ! そんな期待されても困るからね。
槍沢:期待じゃねえよ。危惧で言ってるんだよ。
栃城:そもそもガンは俺の担当ではないし。
槍沢:なんの担当でもないだろ。じゃあ、あなたなんの専門医になるつもりなんですか?
栃城:精神科だよ。
槍沢:マジでやめろ! 一番やっちゃいけない分野だろ!
栃城:免許はなくても医者であろうという精神があるんだから、これは精神科でしょ。
槍沢:そういう意味じゃねえよ精神科って! じゃあ、医者はみんな精神科だよ!
栃城:そこから始まって各々の道に進むんだろ。
槍沢:デフォルトのジョブじゃないんだよ!
栃城:それで今から手術の練習をさせてほしいんですよ。
槍沢:練習ってなにするんですか?
栃城:俺が壺から出した水を渡すからそれを飲んでほしいんだよ。
槍沢:水? ああ、わかったよ。飲むよ!
栃城:ありがとう!
槍沢:なぜならこの話を今すぐに終わらせたいからね!
栃城:「これから手術を始めます。この水を飲んでください」
槍沢:(おざなりに水を飲むマイム)「ゴクゴク」
栃城:よし! これで大丈夫だ!
槍沢:なにが不安だったんだよ! たかがこれだけのやり取りに!
栃城:ちゃんと俺の言葉を信じて飲んでくれるか不安だったんだよ。
槍沢:じゃあ、無意味だよ! そこをやりたくなくて適当にやったんだから!
栃城:どこにクリニックを開業しようかな。
槍沢:明るい未来図を描くな!
栃城:これからは精神科医として頑張るぞ!
槍沢:いい加減にしろよ! 勝手に精神科医を名乗るって……。

   どうせ、この水を飲めば心の病が治るとか言うんだろ!
栃城:いやいやいや……。心の病は治らない!
槍沢:だからわかってるんだよ! ただの水だからな!
栃城:言っておくがな、俺の水ではガンも治らないし心の病にも効果はない!
槍沢:じゃあ、なんになら効くんだよ。お前の医療行為は!
栃城:俺の水を飲むことで水分補給ができます!
槍沢:水素水と同じ医療効果!
栃城:水分が不足している人に飲ませる手術をしていくんだよ。
槍沢:手術とは言わないよ! じゃあ、熱中症になった人に飲ませるわけ?
栃城:熱中症だからといって飲ませていいか
槍沢:なんでだよ! 水分補給できるんだろ!
栃城:水分も大事だけれど、本当に熱中症になったら塩分も摂らないと。

   水だけたくさん飲んでも体内のバランス崩れちゃうから経口補水液とかを飲んだほうがいいんだよ。水だけ飲んで安心しちゃダメ!

槍沢:案外、ちゃんとしてんだな!

栃城:当然だろ! 医者なんだぞ!

槍沢:だから医者ぶるなよ!

   ていうか、水飲ませるにしても、壺ってなんだよ壺って! それひとつで恐ろしく胡散臭くなってるけれども。

栃城:ペットボトルでできたでっかい壺があるだろ?

槍沢:ねえよ! 素焼きのペットボトルとかねえだろ!

栃城:ペットボトルの壺を機械にセットするのよ。

槍沢:機械?

栃城:ああ、逆さにした壺を乗せて、蛇口にコップを押し当てたら水が出てくる専用の機械があるんだよ。

槍沢:ウォーターサーバーじゃねえかよ!

栃城:あれ、そんな名前なんだ!

槍沢:知らなかったのかよ!
栃城:とにかく、そのウォーターサーバーで水を配る医者になるわけですけれども。
槍沢:医者じゃないよ! ウォーターサーバーの試供の人だよ!
栃城:どこで開業しようかなと……。
槍沢:大きな電気屋さんの中でやれよ! ウォーターサーバーの試供の人なんだからさ!

栃城:なるほど! じゃあ、さっそく電気屋さんへ交渉に……。
槍沢:行くなよ! 医者ですなんて言っても門前払い食らうから!

   そもそもさ、なんで医者になりたいとか思ったの?
栃城:今日はさ、こうやって将来について相談させてもらっているけれど、普段はステージの上でお笑いやってるわけじゃん。
槍沢:今日もお笑いやりたかったよ。こんな変な相談じゃなくてな!
栃城:どういうお笑いがやりたいか考えたらさ、世界に通用するお笑いだなって思ってさ。

   だって、お笑いに国境ってないじゃん。もちろん言語とか文化の壁はあるよ。
   でも、人を楽しませたいって気持ちや楽しいって気持ちに国境はないわけだし。

槍沢:はあ……。
栃城:それで、国境のない笑いを作るには同じように国境のないものから学ぶべきだって考えてさ。

   で、国境ないものっていったら国境なき医師団だなって。
槍沢:なんでだよ! 国境のなさのジャンルが別だろ!
栃城:だから医者になりたいなって。
槍沢:はじめて見たよ連想ゲーム式の初心の忘れ方!

栃城:だから今後は医者として、世界各地の水道が整っていない地域にウォーターサーバーで綺麗な水を届けていこうかなと。

槍沢:あれ? 行動自体は間違ってない。

栃城:でも、俺一人でできることには限りがあるからそういう団体に募金していこうかなと。

槍沢:できる範囲で頑張っている! 医者と名乗らなければ!

栃城:そうやって世界に少しずつ笑顔が増えるよう医者として頑張りたいんだよ!

槍沢:精神だけは尊い! 肩書きにこだわりさえしなければ応援できるのに!

   正しい行いをしているんだから間違った出発点に立つなよ!

栃城:……そうだよな。お前の言う通りだよな。

槍沢:ああ、考え直してくれましたか!

栃城:今からでもちゃんと勉強して医師免許を取り、ウォーターサーバーの試供の人になるよ!

槍沢:そこに医師免許は必要ないよ。いい加減にしろ!

二人:ありがとうございました。

コント:ステージ

――カフェで待ち合わせた友人同士の男二人。センターにテーブルと椅子二人板付き。しばらく雑談をしたあとで誘った方の友人(槍沢)が本題を切り出す

 

槍沢:いやあ、元気そうでよかったよ。
栃城:え?
槍沢:いや、先月彼女にフラれて落ちこんでるって聴いていたからさ。
栃城:そりゃ、落ちこんだよ。でも、人の話を聴いたり本を読んだりして考え方を変えてさ。
   なんというか、試練だとわかったんだよ。
槍沢:試練?
栃城:彼女は俺の未熟さに嫌気がさして別れたわけで、そんな自分を反省して見つめ直して成長する機会になったなって。
槍沢:なるほどな。
栃城:なんていうかさ、俺と彼女は対等じゃなくて彼女の方が人として上だって気づいてさ。そりゃ、対等な恋人でいられるわけがないんだよ。
槍沢:だから反省して精神的に成長しようってわけか。
栃城:ああ。それで精神的に成長して対等になれたら彼女を迎えに行くんだよ。
槍沢:あー……。知らないっけ? 彼女、もう新しい恋人がいるよ。
栃城:知ってる知ってる。それも試練よ。それを乗り越えることで魂が一段上のステージに行くのよ。
槍沢:魂? ステージ?
栃城:人それぞれ魂が置かれているステージってのがあって、そのステージを上げていくのが人間の使命なんだよ。
   で、そのためには課された試練を乗り越えていかねばならないんだよ。
槍沢:……お前、宗教やってない?
栃城:は?
槍沢:いや、恋愛の話していたはずなんだけれど、その……恋愛観の奥に宗教観が垣間見えるんだよ。
栃城:やってないよ宗教なんて。
槍沢:本当かよ?
栃城:俺はただ先生にお会いしたり、ご著書を読んで先生の提唱する生き方に共鳴しただけだよ。
槍沢:やめろやめろやめろ! なんだよ先生だのご著書だの共鳴って! お前、相当心酔してるじゃねえかよ!
栃城:とにかく、今は別れた彼女と同じステージに行くために頑張って魂を清めているところだから心配しないでくれ!
槍沢:無理に決まってるだろ! この数分で不安材料が山積みだよ!
   というか、さっきからステージがどうのって言っているけれど、彼女はその宗教やってないんだろ? じゃあ、対等もなにもないんじゃないの? なあ、目を覚ませって。
栃城:だから宗教じゃないって。
   それに宗教とか関係ないから。仏教徒だろうがキリスト教徒だろうが無宗教だろうが関係なく魂のステージは存在するの!
   これは厳然とした事実でお前が思う宗教みたいなまやかしとは話が違うの!
槍沢:他の宗教クサして優位性を示そうとするんじゃねえよ!
栃城:魂の濁りを取って清めることでステージが上がるんだよ。
   魂が清らかになるとどんどん透明になって軽くなって……。最終的にはなくなるんだよ。
槍沢:なくなるの?
栃城:そうしたらどうなるか分かるか? 死ぬんだよ。
槍沢:死ぬの!?
栃城:そうしたら彼女を迎えに……
槍沢:行けない行けない! お前が迎えられているじゃん。死んだら会えないだろ!
栃城:それは今生でだろ。
槍沢:はあ!?
栃城:お前は知らないだろうけれど、俗に言う生まれ変わりってあるんだよ。だから、生まれ変わった先で彼女を迎えに行けばいいんだよ。
槍沢:スケールの大きいストーカーじゃねえかよ!
栃城:でも、俺はそこまでは無理そうだけれどな。
槍沢:死ぬまでは行けないってこと?
栃城:だって、そのステージに行くにはすべての欲を捨て去って清らかにならないといけないんだよ。
槍沢:ああ、そうなの。
栃城:そこまで行ければ最高だけれど、まあ、無理だね。
   だってさあ、おっぱいが揉みたいじゃん!
槍沢:煩悩がすごいな!
栃城:ああ、おっぱいが揉みたい! おっぱいが揉みたいよー!
槍沢:だからって叫ぶなよ!
栃城:おっぱいが揉みたいよー!
槍沢:やめろよ! ここスタバだぞ!
栃城:おっぱいが揉みたいよー!
槍沢:スタバ!
栃城:おっぱいが揉みたいよー!
槍沢:オープンテラス!
栃城:おっぱいが揉みたいよー!
槍沢:表参道!
栃城:おっぱいが揉みたいよー! キスがしたいよー! 手を繋ぎたいよー!
槍沢:内容をプラトニックにすればいいってことじゃないから。叫ぶなって言ってるの!
栃城:百万円がほしいよー!
槍沢:別方向の煩悩が!
栃城:百万円がほしいよー! そのお金でおっぱいが揉みたいよー!
槍沢:煩悩が煩悩の呼び水に!
栃城:眠りたいよー! ご飯が食べたいよー!
槍沢:三大欲求を叫ぶな!
栃城:君の寝顔をみつめてたいよ 君の作った料理食べたいよ
槍沢:なに大迷惑かけながら「大迷惑」の歌詞叫んでるんだよ!
栃城:お金なんかはちょっとでいいのさー! 百万円がほしいよー!
槍沢:お前のちょっとの基準どうなってるんだよ!
栃城:スタバを出禁になりたくないよー!
槍沢:じゃあ、黙れよ!
栃城:おっぱいが揉みたいよー!
槍沢:ここに来て原点回帰するなよ! おい、とにかく落ち着けって!
栃城:……はあ、また一段ステージを上がってしまったな。
槍沢:なんでだよ! 煩悩を絶叫していただけだろ。
栃城:そうやって自分は清らかな存在になれないと悟ることもまた魂のステージを上げるのに必要なことなんだよ。
槍沢:はあ……?
栃城:ステージを上げようと考えることもまた欲でなわけで、そんな欲を捨てきれていない汚れた自分から目を背けず受け入れる。
   これもまた試練を乗り越えたってことなんだよ。
槍沢:ずっと肉欲しか叫んでなかっただろ。ステージどうこうって欲じゃなかっただろ。
栃城:これでお前とはステージが離れてしまったな。
槍沢:なんら悔しくはないが釈然とはしない。
栃城:ここまでステージが離れると対等な関係でいられるはずもないのだが、そこは昔のよしみ。寛大なる心でこれまで通りに接してやろう。
槍沢:めちゃくちゃ高圧的じゃねえかよ。ていうか、これまでずっとうっすら見下されていたのかよ。
栃城:こうやって一段ステージを上がったってことはそろそろ彼女を迎えに行けるんじゃないかな。
槍沢:無理だわ! 今のお前が行ったところでただおっぱい揉みたいって叫ぶだけだろ!
栃城:そうなるかな。
槍沢:好きでもない奴がそんなこと叫んでくるんだぞ。犯罪じゃねえかよ!
栃城:それは今生での話だろ?
槍沢:どの世でもだよ! 今後、お前がどれだけ生まれ変わってもこの行為が罪とならない世の中は来てほしくない!
   そもそも今生のお前が今生の彼女に会いに行くんだから犯罪だろ!
栃城:そうか……知らぬうちに罪を犯そうとしていたのか。
   これではむしろステージが下がってしまう……。でも、おかげでお前と対等な関係に戻れたな!
槍沢:戻れねえよ。これまでのやり取りがあった以上、対等な関係ではいられねえよ。
   なあ、フラれて辛かったのはわかったけれど今のお前絶対間違ってるって。よく考えてみろよ、このままステージがどうのとか言い続けて彼女が振り向いてくれると思うか?
栃城:……そうだよな。
   フラれてからなんとかしなくちゃって気持ちだけはあって、でもなにしたらいいかわからなくて、後先考えずに目についたものに飛び付いちゃったかもな。
   心を入れ換えて別のやり方で自分と向き合って成長できるよう頑張るよ。
槍沢:栃城……。考え直してくれたんだな!
栃城:それで未熟な自分を変えられたら、彼女じゃなくても誰かいい人に振り向いてもらえるかもしれないし。
槍沢:ああ、そうだな。頑張れよ!
栃城:よし! じゃあ、頑張るけれど、景気づけにおっぱい揉みたいんだけれど、誰か気さくにおっぱい揉ませてくれる人知らない。
槍沢:知るわけねえだろ! なんだよ、ちゃんと決意したと思ったのに!
栃城:だっておっぱい揉みたいじゃん! ああ、おっぱいが揉みたい! おっぱいが揉みたいよー! おっぱいが揉みたいよー!
槍沢:まず、そういうところから直していこうな。

コント:夢診断

――喫茶店。大学のサークル仲間の二人。センターに机とテーブル。向かい合って板付き。


槍沢:なんだよ、急に呼び出して。
栃城:お前、最近、夢診断にハマってるんだろ?
槍沢:ああ。
栃城:それってどういうものなの? 夢の内容でなにを考えているのかとかわかるの?
槍沢:まあ、大雑把なものになるけれどな。
   簡単に説明するとな、夢ってのは睡眠中の脳が記憶の整理をしているときに見るものでさ、
   そのときに自分でも気づかない深層心理が表れているからそれを推測しようってことなんだよ。
栃城:なるほどな。実は最近、嫌な夢ばかり見るから相談したいんだよ。
槍沢:わかったよ。で、どんな夢なんだよ。
栃城:人を殺す夢なんだよ……。
槍沢:ああ、そりゃ気になるだろうな。
栃城:最初は口論から揉み合って突き飛ばしたら当たり所が悪くて……って夢だったんだけれど、
   そのうち首を絞めたりナイフで刺したり殺し方がひどくなってさ。段々、殺す理由もなくなってきて……。
   俺、恐いんだよ! こんな夢を見る俺は心の奥でどんなこと考えているのか恐いんだよ!
槍沢:なるほどな。心配なのもわかるけれど、人を殺す夢っていうのは案外悪い意味じゃないんだよ。
   その殺した人との間に「新しい関係を築きたい」って考えているのがそういう夢になることもあるからな。
栃城:そうなの?
槍沢:ああ、殺すことに「今までの関係をリセットしたい」って深層心理が表れているんだよ。
栃城:……ああ、そうだったのか。
槍沢:まあ、説は色々あるけれどな。全部この解釈でいいってわけでもないし。
栃城:でも、悪い意味とは限らないって言ってもらえただけで安心したよ。
槍沢:ならよかったよ。ところで、その夢で殺している相手って誰なんだよ?
栃城:お前だよ。
槍沢:え、俺?
栃城:そうだよ。そうかー! 俺はお前と新しい関係を築きたかったんだな!
槍沢:え、俺!?
栃城:そうだよー! すげえ恐かったんだよ。なんせいろんな殺し方したんだからな!
槍沢:知らねえよ! 知らねえし知りたくねえよ! 夢での死に様なんぞ!
栃城:惨殺したぞ、惨殺!
槍沢:楽しげに惨殺とか言うなよ!
栃城:いや、楽しくはないよ。めちゃくちゃ悪夢だったからな! それはそれは血みどろで……
槍沢:いいよいいよ、言わなくて!
栃城:どれだけ目覚めの悪い朝を迎えたことか!
槍沢:お前の深層心理が原因だからな! え? たとえばさ、俺以外のサークルのメンバーが夢に出たことないの?
栃城:ああ。何回かあるよ。
槍沢:そいつらを殺す夢って見たことないの?
栃城:一切ないね。
槍沢:なんでだよ! なんで俺だけなんだよ! じゃあ、他のやつはどんな夢に出てくるんだよ!?
栃城:バーベキュー行く夢とか。
槍沢:めちゃくちゃ楽しそうな夢じゃねえか! なんだこの夢の格差!
栃城:あ、そうだ。バーベキューに行く夢ってどんな深層心理かわかる?
槍沢:バーベキューだろ……。バーベキュー!?
栃城:どうした!?
槍沢:それはよくない夢だな……。
栃城:え、そうなの!?
槍沢:ああ、肉を焼くってことは暴力性の表れでな。それを食べ合うっていうのは、一見楽しそうでも、その関係を壊したいっていう暴力的な願望が表れているんだよ。
栃城:そんな……。そうだ! 一緒にクラブに行く夢も見たんだけれど……。
槍沢:それもよくない夢だな……。
栃城:嘘だろ!?
槍沢:クラブって大きな音で周りの人の会話がよく聴こえないだろ。
   これは一緒に行った人の話を聴きたくない。内心で関わりに閉塞感を覚えていることを表しているんだよ。
栃城:そんな……。
槍沢:ちなみに誰と一緒に行った夢だったんだよ?
栃城:お前以外のサークルのみんなだったよ。
槍沢:え? 俺以外の?
栃城:そうだよ。バーベキューもクラブもお前以外全員と行った夢なんだよ!
槍沢:俺は?
栃城:一秒たりとも出てこなかった。
槍沢:なんでそういう夢には出てこねえんだよ!
栃城:畜生! 実はサークル仲間を疎ましく思っていたなんて!
   でも、お前にはそういう悪い深層心理はないんだよな! それだけはよかったよ。
槍沢:喜べないわ!
栃城:こういうにぎやかな夢では一回も出てこなかったからな。
槍沢:それが嫌なんだよ!
栃城:あ、ごめん! 一回だけパーティの夢に出てきたことあったわ。
槍沢:え! 本当かよ! どんな夢だよ!
栃城:お前を殺したあとみんなを呼んで俺の家でパーティしたんだよ。
槍沢:同時上映の一本目じゃねえかよ! なに、エピソード0で人を殺めてから宴席開いてるんだよ!
栃城:パーティっていっても、たこ焼きパーティだったしさ。
槍沢:ならいいかとはならねえよ!
栃城:起きたあと思ったね。「俺の部屋1Kなのに20人も入るわけねえだろって」
槍沢:まず思うことじゃねえだろ! 先に俺を殺したことへの恐怖だろ!
栃城:笑っちゃったよ。
槍沢:笑うんじゃねえよ! せめて寝起きぐらいは罪の意識にさいなまれろよ!
   さっきは何度も目覚めの悪い朝を迎えたとか言ってたのになんだよ!
栃城:いや、いつもは目覚めが悪いんだよ。でも、あまりにも夢が楽しすぎたからさ……。
槍沢:負けてんじゃねえよ! 頑張れよ罪悪感!
栃城:それなのに……。まさか、深層心理ではそんなひどいことを考えていたなんて……。
   信じられねえよ! だって、だってあんなに楽しくバーベキューしていたのに!
槍沢:楽しくって言うけれど、夢の話だろ。
栃城:いや、夢じゃなくて実際に行ったんだよ。
槍沢:はあ!? バーベキューに!?
栃城:ああ。お前以外のサークル仲間みんなとバーベキューやった日の夜にバーベキューの夢を見たんだよ。
槍沢:じゃあそれ深層心理じゃなくて記憶の整理整頓だわ!
栃城:それからクラブで酔いつぶれているときにクラブの夢を見た。
槍沢:追っかけ再生だよ! 夢で記憶を追っかけ再生しているんだよ!
栃城:でも、たこ焼きパーティの夢を見る前にしていたのはお好み焼きパーティだったな。……これはなんらかの深層心理が表れているのか!?
槍沢:変わらねえよ!
栃城:でも、お好み焼きだったのに夢ではたこ焼きになってるんだぞ!?
槍沢:だから変わらねえよ! 粉もんで細分化されてねえよ! 強いて言えば「たこ焼き食いたかったなあ」ぐらいだよ!
   え? ちょっと待て。お好み焼きパーティしたの? お前の部屋で?
栃城:ああ。やったよ。
槍沢:でも、さっき、本当は入るわけないのにパーティする夢見たから笑ったって……。
栃城:ああ、「入るわけないのに昨夜は無茶したなあ」って笑ったのよ。
槍沢:思い出し笑いかよ! なんなんだよお前! 楽しくやりながら人を殺す夢ばっかり見やがって!
栃城:怒るなよ! 俺はただお前との新しい関係を築いていきたいだけなんだよ!
槍沢:もうなってるよ! 少し前から新しい関係が始まってるよ!
栃城:やったなあ!
槍沢:喜ばしくはねえんだよ!
   お前とだけじゃなくてサークル仲間全員と今までと同じようには付き合えねえよ!
   なんで、どの集まりでも俺を呼ばないんだよ!
栃城:だってお前、サークルに顔出しても全然話さないし、いつもすぐ帰っちゃうからどう誘っていいかわからないじゃん。
槍沢:いや、それはさ……。
栃城:いつも誘いたかったけれど、にぎやかな集まりが苦手だったら悪いなってずっと遠慮していたんだよ。
槍沢:そうだったのか……。
栃城:さっき、深層心理でサークル仲間との関係を壊したがってるって言われたけれどさ、ずっと変わりたかったんだよ。お前だけがいないサークルの集まりを。
   ずっと息苦しかったんだよ。お前だけがいない時間がさ。
槍沢:そうか……悪かったな。お前の気持ちも知らないで怒って。
栃城:いや、俺たちが一言誘えばよかっただけだから……。
槍沢:よし、わかった。じゃあ、今度、サークルのメンバーで集まるときは俺も必ず参加するよ。
栃城:本当か! よし、じゃあ今度なんて言わないで、これから集まって飲みに行こうぜ! みんなにも都合いいか訊いてみるから(スマホをいじるマイム)。
槍沢:悪いな……。
栃城:おい! みんないいって!
槍沢:本当かよ!
栃城:ああ! それでちょっと訊いてみたら、みんな夢でお前を殺したことあるんだって!
槍沢:みんな?
栃城:みんなみんな! ひとり残らず! やっぱりみんなもお前と新しい関係になりたかったんだな!
槍沢:…………よーし、じゃあ誰がどんな殺し方したか当てちゃうぞ!
栃城:おお、いいねえ! じゃあ第一問! サキちゃんはどう殺したでしょうか?
槍沢:サキちゃんだろ……。おっとりして優しいから残酷なことはしないはず……。毒殺!
栃城:ブー! 正解は腹上死でしたー!
槍沢:お? おお……。おお……。あー……ギリギリ嬉しい!

漫才:政治家

武田:どうも、よろしくお願いします。
   まず最初に自己紹介しますと僕が武田完で隣にいるのが三浦碧。
   二人合わせてENDGREENです。よろしくお願いします。
三浦:ねえ、ねえ完君、完君。話があるんだけどさ! 私、完君にお願いしたいことがあるんだ!
武田:お願い?
三浦:うん。でも、その前に完君に確認したいことがあってね。
武田:なんだい一体? 僕にできることならなんでもやるけれど。
三浦:確認しておきたいんだけれど、完君って支持政党ってある?
武田:碧ちゃん。いったいなにをお願いするつもりなんだい? 想像よりもナイーブな話題のようだけれど。
三浦:支持政党があると頼みづらいお願いだからね。
武田:碧ちゃんには申し訳ないけれど、家訓で政治と宗教と儲け話の誘いには近づかないようにしているんだよ。
   まあ、一応答えておくと無党派層だけれどさ。
三浦:お願い完君! 次の選挙に出馬してほしいんだ!
武田:まさか当事者として頼まれるとは思わなかったよ。
   碧ちゃん、出馬ってどういうことかな?
三浦:お願い! 完君に政治家になってほしいの!
武田:お願いされても政治家になりたくないし、そもそも出馬したところで絶対受からないよ。
三浦:完君! 絶対って言うけれど、出ないと当選確率は0%なんだよ!
武田:碧ちゃん、宝くじを買うときの精神論で言われても困るよ。
三浦:出馬さえすればあとは受かるか受からないかだから当選確率は50%だよ!
武田:ごまかされないからね、碧ちゃん。

   そういう理屈は島本和彦が描くような熱さがあってはじめて説得力が生まれるものだから。
三浦:じゃあ、当選できるよう総理大臣になってから出馬して!
武田:システム上無理だよ、碧ちゃん。そんなボトルシップみたいにはいかないからね。
三浦:総理になったらどれくらいの確率で当選できるかわかる? 受かるか受からないかだから50%だよ!
武田:この場合の精神論は逆効果だよ碧ちゃん。
   現総理の当選確率が五分五分って相当な逆風吹いていないと弾き出されないからね。
   そもそも、なんで僕に政治家になってほしいんだい?
三浦:実は、私、政治家になりたいんだ。
武田:え? 碧ちゃんが政治家になりたいの?
三浦:そう。
武田:それなのに僕が出馬するのかい?
三浦:だってさ、私には地盤も看板も鞄もないじゃない。

   だから完君に政治家になってもらって偉い人に紹介してほしいの!
武田:コネでどうこうなる問題ではないよ。

   というか、偉い人って誰に紹介すればいいんだい?
三浦:それはもちろん有権者の皆様だよ!
武田:ちゃんとした倫理観はあるんだね。
   それで碧ちゃんはなんで政治家になりたいの?
三浦:最近、チャップリンの「独裁者」を観たんだ。
武田:名作映画だね。
三浦:それで思ったんだ。政治家になりたいなって!
武田:碧ちゃん、どこに憧れているんだい?
三浦:だって有名な政治家になったら偉大なコメディアンに題材にしてもらえるんだよ!
武田:風刺として扱われることを良きこととして捉えないでね。
三浦:偉大なコメディアンだよ! 偉大なコメディアン!
武田:それからね碧ちゃん。

   力不足は承知で言うけれど、僕らもこうやって漫才をやっているんだから偉大なコメディアンになる方を目指そうよ。
三浦:じゃあ、私は有名な政治家になるから完君は偉大なコメディアンを目指そうね!
武田:碧ちゃん、返す刀で袂を分かとうとしないでよ。一緒に頑張りたいんだから。
   そもそも政治家になりたいって言うけれど、碧ちゃん政治のことわからないでしょ?
三浦:大丈夫だよ! twitterで勉強したもん!
武田:こっちも返す刀でなんだけれど、twitterで政治を勉強しただなんていよいよ距離を置かせてもらうよ、碧ちゃん。
   正しい正しくない以前に極端な意見がはびこりすぎているからね。
三浦:チョコミン党ってところが人気なんでしょ。
武田:碧ちゃん、おそらくだけれど政治関係の人は誰もフォローしてないよね。
三浦:そこから出馬しようと思うんだ!
武田:碧ちゃん、不可能だよ。チョコミン党にはこの国を変えようって意思はないからね。
   いったい、チョコミン党はどんな政策を掲げていると思うんだい?
三浦:「チョコミン」って国民に響きがにているから国民のことを考えた政策かな。
武田:碧ちゃん、出馬する以上は国民のことを考えた政策は絶対条件だよ。
三浦:よし! 今から出馬したつもりで演説するからちゃんとできているかチェックしてね!
武田:勝手に先走らないでね碧ちゃん。相方ひとりの声に耳を傾けないのに国民の声に耳を傾けられるのかい?
三浦:「この度、チョコミン党から立候補した三浦碧です!」
武田:碧ちゃん、党名の段階でチェックを入れたいよ。
三浦:「我々、チョコミン党はチョコミントのような政治を目指します!」
武田:でも、とりあえずスリーストライクまでは見守るね。
三浦:「チョコミントはさわやか。私たちも国会にさわやかな風を吹かせます!」
   「チョコミントは眠気ざましにピッタリ! チョコミントの力で国会で居眠りしません!」
   「チョコミントはコンビニで大人気。コンビニは庶民感覚そのもの。庶民感覚がわかる政治をします!」
   どう、完君! 私の演説よかったでしょ!
武田:全体的に初心者のなぞかけだったよ。

   スリーストライクで止めるつもりがその間もなくスリーアウトになってしまったよ。
三浦:そうかなあ……。
武田:まず、「さわやかな風」はスローガンならともかく公約だと抽象的すぎて無言と同義だよ。
   そして、職場で居眠りしないと高らかに謳われても不安になるよ。
   最後に「さよなら三角」みたいにジョイントしていたけれど、チョコミントのお菓子がコンビニで人気なことと庶民感覚がわかるかどうかは別問題だよ。
三浦:でも、庶民感覚はよくわかるよ!
武田:実際に庶民だからね。ストレートにアピールすればいいのにチョコミントを乗せるから伝わらなくなっているよ。
三浦:うーん……。チョコミントのイメージを大切にしたいんだけれどな。
武田:あと、今の演説ってミント単体で成立するよね。
三浦:あ、そうか。チョコの要素も入れないとね!
武田:だからって無理して入れてほしいわけじゃないよ。
三浦:「さて、皆さん。政策の話もいいですが、チョコレートの話をしましょう!」
武田:碧ちゃん、雑談に切り替わる演説ってなかなかないよ。
三浦:「チョコレートといえば様々なチョコレートがあります。
    最近ではカカオの含有率が高いものもあり、中にはカカオ100%というものもあります。さて%といえば消費税。消費税もチョコレートと同じく100%にします!」
武田:無理して入れようとするから。いきなり国民を無視した政策を掲げているじゃないか。
三浦:「さて、皆さん。チョコレートといえば様々なチョコレートがあります。

    最近ではカカオの含有率が高いものもあり、中にはカカオ100%というものもあります」
武田:碧ちゃん、チョコレートの特徴はカカオの含有率だけじゃないよ。
三浦:「さて%といえば支持率。私たちは支持率は100%を目指します。いえ、100%以外許しません! どんな手を使ってでも100%にさせます!」
武田:碧ちゃん、本当に独裁者になろうとしているよ。
三浦:「さて、皆さん。チョコレートの話をしましょう」
武田:これでいい演説ができてもチョコレートとミントが分離していることに変わりはないんだけれどね。
三浦:「チョコレートを用いたゲームはたくさんあります!」
武田:そうかな? パッとは出てこないけれど。
三浦:「たとえばグミ・チョコレート・パイン
武田:碧ちゃん、そういう用い方なのかい?
三浦:「チョキで勝ったらチ・ヨ・コ・レ・イ・トで六文字進める。

    そんなチョキに勝てるグーは二文字。あまり進めないけれど、相手のリードを防ぐのに役立つ。良くできたゲームバランスですね! 以上、三浦碧でした!」
武田:雑談で終わっちゃったよ。パインに触れることなくグミ・チョコレート・パインの雑感で終わっちゃったよ。
三浦:「さて、皆さん。『チョコレイト・ディスコ』といえばPerfumeの名曲ですが」
武田:「チョコレートといえば」の雛型も捨てるのかい。
三浦:「Perfumeといえば『あ~ちゃんです』『かしゆかです』『のっちです』『三人合わせてPerfumeです』でお馴染みですよね。
    私たちは『チョコミン党です』『チョコレー党です』『ミン党です』『三党合わせて連立政権です』この体制で皆様の暮らしを豊かにします!」
武田:碧ちゃん、ここに来て新規の政党と連立を組まないでよ。
   そして、その三党は一緒にチョコミン党としてまとまるべきだと思うよ。
三浦:チョコは好きだけれどミントは苦手な人とミントは好きだけれどチョコはあんまりって人の党なんだ。
武田:だとしたら呉越同舟が過ぎないかな。早々に瓦解しそうだよ。
三浦:あ! そうだ! 完君やっぱり出馬してくれない? チョコレー党から出てほしいんだ!
武田:連立組みたさに出馬要請を蒸し返さないでね碧ちゃん。なぜミント嫌いと思われたのかも謎だし。

   それに仮に僕が出馬するとして、もうひとつのミン党はどうするんだい?
三浦:最悪、自民党とか社民党とか立憲民主党みたいに民の字が入っているところに改名してもらえばいいかなって。
武田:碧ちゃん、碧ちゃんの妥協案で政党を動かせると思わないでね。

   あのね、碧ちゃん。申し訳ないけれど、今の碧ちゃんは政治家を志すにしては身に付けていないものが多すぎるよ。

三浦:そっか……。政治家になるのは無理なのかなあ……。
武田:あのね、碧ちゃん。

   さっきも言ったけれど、僕らは有名な政治家じゃなくて漫才を頑張って偉大なコメディアンを目指そうよ。
三浦:うん……。そうだね。わかったよ完君!

   私、頑張って偉大なコメディアンになる! そうしたら偉大なコメディアンになった完君が風刺してね!
武田:碧ちゃん、風刺されることが目的になってしまっているよ。
   いい加減にしようか。
二人:ありがとうございました。

漫才:マジック

武田:どうも、よろしくお願いします。
   まず最初に自己紹介しますと僕が武田完で隣にいるのが三浦碧。
   二人合わせてENDGREENです。よろしくお願いします。
三浦:ねえ、ねえ完君、完君。話があるんだけどさ! 私、今度マジックをやるんだ!
武田:マジック?
三浦:うん! 友達の結婚式の二次会で余興をやることになってね。
武田:なるほどね。
三浦:それで、うまくできるか不安だから本番でアシスタントをしてほしいんだ。
武田:アシスタント? それはかまわないけれど、碧ちゃんはどんなマジックをやるんだい?
三浦:コインを消すマジックをやるんだ。
武田:テーブルマジックなんだね。
三浦:そうなの! シンプルで地味に見えるけれど、だからこそ決まったときの鮮やかさはすごいからね。
武田:ちゃんと考えているんだね。
三浦:テーブルに置いたコインに布を被せて、指をならしてパッて取り上げたらコインがなくなっているって手順でやるんだ。
武田:なるほどね。……あれ? でもそれだと僕がアシスタントでいる必要がないんじゃないのかな?
三浦:必要だよ! 完君には一番重要なことをやってもらうから。
武田:一番重要? どんなことをすればいいんだい?
三浦:あのね、マジックって、右手を大きく動かしたりして注目させている間に左手でトリックを仕掛けているってよく言うでしょ。
武田:ミスディレクションと呼ばれるテクニックだね。
三浦:完君にはそのミスディレクションを手伝ってほしいの!
武田:というと?
三浦:完君が大型トラックで会場に突入して列席者の気をそらしている間に仕掛けを終わらせるんだ!
武田:碧ちゃん、それは陽動作戦。アクション映画とかで観る計略じゃないか。
三浦:じゃあ、あとで日時教えておくから当日はよろしくね!
武田:碧ちゃん。このレスポンス数で打ち合わせを終わりにするには無理難題が過ぎるよ。
三浦:不安でもあるの?
武田:不安じゃなくて確信として存在しているよ。
   トラックで突入だなんて危険きわまりないでしょ。
三浦:大丈夫だよ! ちゃんと人払いして突入してもいいスペース確保しておくし。
武田:碧ちゃん、存在しないよ。仮に無人だとしても突入していいスペースは存在しないからね。
   碧ちゃん、ちゃんと考えてみてよ。大型トラックが突入するんだよ。出席者はなんて言うと思う?
三浦:うわー! このトラック新郎新婦の写真でラッピングしてある!
武田:理想論が過ぎるよ碧ちゃん。
   広告用のトラックを特注している心憎さに気を配れる余裕は持てないよ。
   というか、特注したの?
三浦:うん! 宣伝用のラッピングできるトラックをレンタルしてね! 絶対喜んでくれると思って内緒にしてあるんだ!
武田:特注のトラックを用意する気遣いがあるなら、別のやりかたで気をそらしてくれないかな。トラック無駄にしちゃって申し訳ないけれど。
三浦:それなら大丈夫だよ! 突入させないならクラクションでオリーブの首飾り奏でてもらうから!
武田:楽器として用いるのかい? なんにせよトラックで突入以外のやりかたを考えてね。
三浦:じゃあ、爆発で気をそらせることにするね。
武田:どちらにせよ陽動作戦だね。
   混乱に乗じる以外の方法にしてほしいんだよ。
   爆発なんて起こされたら惨事にしかならないでしょ。
三浦:大丈夫だよ。爆発は爆発でも楽しめる爆発。花火を打ち上げるんだ!
武田:さっきと重複する問題点は後回しにして別方向から指摘していくね。
   碧ちゃん、花火を打ち上げるんだよね?
三浦:そう!
武田:その隙にテーブルのコインを消すんだね?
三浦:うん!
武田:負けちゃうよ。花火が相手じゃテーブルマジックの利点がすべて裏目に出てしまうよ。
   夜空を華麗に彩られたあとではコインの動向は気に止めてもらえないよ。
三浦:でも、私が観てきたマジシャンはいついかなる場所でも最高のパフォーマンスを見せてくれたよ。
武田:それはプロの技術と話術があるからだよ。
   どれだけホームだとしてもアマチュア相手に花火は分が悪すぎるよ。
三浦:大丈夫だよ!
   私のマジックが負けないようにアマチュアの花火師である完君に頼んでいるんだから!
武田:碧ちゃん、物騒な肩書きで呼ばないでね。
   そもそも存在するのかなアマチュアの花火師って?
三浦:だって完君、プロじゃないでしょ?
武田:かといってアマチュアですらないよ。そういう区分けとは無縁の生き方をしてきたからね。
   で、さっきと重複することの一点目ね。僕に頼まれても困るよ。なぜなら素人なのだから。
   それから二点目。そんなことしたら会場が大惨事だよ。トラックで突っ込んだり、屋内で花火打ち上げたりしていい場所なんてないからね。
三浦:屋内? あれ、完君、屋内でやるって勘違いしてるの?
武田:え? だって結婚式の二次会ってレストランとかパーティ会場を貸しきってやるんじゃないの?
三浦:ああ、ごめん言ってなかったね。
   二次会は高層ビルの屋上にあるビアガーデンを貸しきってやるんだ。
武田:ええと、ちょっとってね碧ちゃん。最初に提案したときから屋上のビアガーデンを想定していたんだよね?
三浦:もちろん!
武田:じゃあ、どこからトラックを突入させるつもりだったんだい?
三浦:隣のビルの屋上から猛スピードで飛び込んでくればできるでしょ。
武田:絶対無理だよ。さっきの認識でも絶対無理だったけれど、絶対のなかに明確な序列が生まれる無理さだよ。
三浦:あ、もしかして完君、大型の免許持ってないとか?
武田:そういう次元の問題じゃないよ。
三浦:じゃあ、トラックやるなら教習所に通ってくれないかな?
武田:間に合わないよ。そもそもやらないけれど、やろうとしても間に合わないよ。
   免許を取れたところでビルの屋上から屋上まで飛び移るなんて一朝一夕で身に付く技量じゃないからね。
三浦:教習所に通うのに?
武田:碧ちゃん、今度、自動車教習所のパンフレット請求しよう。どこの学校のカリキュラムにもないからね。
三浦:でも、映画の撮影とかパフォーマンスでビルからビルに車で飛び移るカースタントの人とかいるよね?
   ああいう人たちってどこで身に付けたの? 独学?
武田:ではないけれども。どのみち免許取り立ての人が挑んでいい領域ではないからね。
三浦:そっか……。トラックか花火をやってくれたら絶対いいマジックになるのに。
武田:そうでもないよ。碧ちゃん、素直にマジックすればいいだけだからね。
三浦:じゃあ、今からシミュレーションしてみるから、
   それでいいマジックになるなって思ったら考え直してくれる?
武田:碧ちゃん。頑張っているところ心苦しいけれど、どれだけ巧妙なプレゼンをされても揺るぎようがないよ。
三浦:「ご紹介いただきました新婦の友人の三浦碧です。
    これからマジックでこのテーブルに置いたコインを消してみせます!
    ですが、その前にもうひとつマジックを。今からこの場にトラックを出します!」
武田:プログラム組み込むのかい? トラックの突入を。
三浦:「タネも仕掛けもありません!」
武田:あるとしたら超人的なドライブテクニックと勇気だけだからね。
三浦:「見事、トラックの出現が成功したら私に大きな拍手を!」
武田:せめて手柄はドライバー側のものにしようよ。
三浦:「では、トラックが出現したところで空をご覧ください! 大きな花火を出現させます」
武田:言いたいことたくさんあるから、箇条書きで伝えるね。
   まず、素人の花火をマジックの流れに組み込まないでね。
   なんでトラックとその代替案の花火の両方やることになってるのかな?
   最難関の移動は「では」の二文字で飛ばしていいものじゃないよ。
   突入が成功したとして、話の流れでは立て続けに花火をやっているけれど、少しは休ませてもらえないかな。僕にそんなタフさはないからね。
三浦:「私はその間にコインを消します!」
武田:碧ちゃん、宣言したら意味がないよ。
   そして、花火のときに消すんだったら、トラックを突入させた意味はなんなんだい? なんのためのミスディレクションなのかな?
三浦:どう? やる気になったでしょ!
武田:だとしたら演じている横からあれだけ口を挟んでいないよ。
三浦:そっか……。このアイディア全然、ダメだよね。
武田:碧ちゃん、気づいてくれたんだね。
三浦:だって、結婚式の二次会で「消す」マジックは縁起が悪いもんね!
武田:そこは論点じゃなかったけれど、碧ちゃんが考え直してくれるなら理由はなんでもいいや。
三浦:余興は別のマジックにするね!
武田:別のマジック?
三浦:うん。ひとセット52枚の普通のトランプの絵柄がシャッフルしただけで全部ハートになってるマジックなんだ。
武田:ロマンチックなマジックだけれど、どうやって成功させる気だい?
三浦:トラックと花火で気をそらしている間にどうにかするよ!
武田:そこが一緒ならどんなマジックでも結論は一緒だよ。ガワじゃなくて内部の構造に問題があるんだからね。
三浦:みんなが見惚れている間に(トランプを広げていろんなところから一枚ずつ抜いていくマイム)えーと……ハート、ハートって。
武田:単純作業なのかい? 考えているトリックって。
三浦:それで、13枚集まったら他に3パック買ってあるからそこから抜き出してハートだけのセットを作るんだ!
武田:そこは事前準備しておいてよくないかな?
三浦:でも、マジックやるときってタネも仕掛けもありませんって宣言するから、ちゃんと守らなきゃ。
武田:碧ちゃん、愚直がすぎるよ。定型の前口上に自縄自縛になる必要ないからね。
三浦:じゃあ、このマジックを一緒に……
武田:碧ちゃん、断るよ。ミスディレクションはもとより、それを抜きにしてもトリックが直球勝負過ぎるもの。
三浦:そんなあ……。私は友達のために完君と一緒にマジックがしたいのに!
武田:漫才でよくないかなあ? ずっと引っ掛かっていたんだけれどさ。
三浦:漫才? いいの!?
武田:せっかく二人いるんだしさ。碧ちゃんの友達なら僕もそれなりに協力は惜しまないからね。
三浦:わかった! じゃあ、一緒に漫才やろ!
   私がはいどうもーってステージに出ていくから、完君は隣のビルからトラックで突入して登場してね!
武田:碧ちゃん、いくら特注したからってトラックの活用にこだわるのやめようね。
   いい加減にしようか。
二人:ありがとうございました。